現代の日本では賃貸住宅を借りる際に不動産業者に仲介してもらって仲介料を支払って借りるのが一般的です。さらに万一借りた物件に何らかの不具合があった場合や、管理まで不動産業者が携わっている場合には近隣トラブルの処理まで、何かと不動産業者にはお世話になります。
ということは、信頼できる不動産業者を選ばないと、ずっと苦労する、あるいは泣く泣くまた引っ越す羽目になるかもしれません。そこで、いい業者選びをするために一つの目安になるのが免許更新回数です。
不動産免許について知っておこう
当たり前ですが、今の日本では「不動産業者になろう」と言ってすぐに開業できるものではなく、必ず免許が必要になります。
広い意味で「不動産業者」と言うと、たとえば土地建物を自己所有している大家であったり、それを利用したファンドの運営だったりと、様々な業種が含まれるという考え方もありますが、一般的には「不動産業」と言うと、土地や建物の売買や賃貸の仲介をすること、というイメージが強いと思います。
今回は、土地や建物の売買や賃貸の仲介をする不動産業者が必要な免許について解説していきます。
必要な免許とは
不動産業者は正式には「宅地建物取引業」と言います。略称の「宅建業」のほうがよく知られているかもしれません。これを始めるために免許が必要であり、それを定めているのが宅地建物取引業法(昭和27年6月10日法律第176号)です。この免許には国土交通大臣に申請するケースと、各都道府県知事に申請するケースがあります。
なんとなく国のお役所である国土交通大臣の免許のほうが格が上のような気がしますが、実質的な違いはありません。一つの都道府県だけに事務所を持って営業をするなら都道府県知事、二つ以上の都道府県に事務所を設置して営業をするなら国土交通大臣と別れているだけなので、平たく言えば都道府県をまたいでチェーン展開しているかどうか程度の違いです。
免許の更新とは
自動車の運転免許と同じように、土地建物取引業の免許も更新が必要です。以前は3年ごとの更新が必要でしたが、1996年からは5年ごとの更新になりました。この更新回数は誰でも目で見ることができます。不動産業者に行くと、だいたいどこでも目につきやすい場所に額があって「国土交通大臣免許(10)○○号」「東京都知事免許(8)××号」などと書いてあると思います。
これが免許を取ったときに割り振られる番号で、かっこ内の数字が、更新回数です。最初に免許を取った段階では(1)となり、これが5年を経るごとに2、3……と増えていきます。つまり、かっこ内の数字が多いほうが長く営業しているベテランということになり、だったら信用できるのではないか、と思うかもしれませんが、一概にそうとも言い切れません。
更新回数を読み解く
確かに地域密着型で更新回数が多い不動産業者は、その地で長くやっているということですから、ある程度信頼度は高いと思っていいと思います。
ですが、初めて家探しをする人は、どうしてもCMで多く流れていて名前を知っている会社や、駅前のきれいなオフィスビルに入っているようなガラス張りの明るく清潔な不動産業者に行きたくなってしまうかもしれません。
おじいさんが一人でちんまりと座っているような、薄暗く、中もよく見えないような不動産業者は敷居が高く感じてしまうかもしれませんが、更新回数が多いのなら、長くやってきた業者なのだな、と安心できるひとつの要素となります。
逆に店構えは古臭いのに更新回数が0や1ということは、過去に何か事件や違反をやって免許取り消しなったのでは?という疑惑を持ってしまう人もいるかもしれません。ですが、これも一概にそうとも言えないのです。
更新回数が少ないのは免許取り消し?
確かに不動産業者の中には悪どいことをやって免許取り消しになるような業者もあります。更新回数を気にする人は、「そういう悪徳業者に引っかかりたくない」という思いが強いのだとは思いますが、実際にはどうなのでしょうか?
ここに一般社団法人不動産適正取引推進機構がまとめた「平成27年度末宅建業者と宅地建物取引士の統計について」というデータがあります。
参照URL:平成27年度末宅建業者と宅地建物取引士の統計について
これによると、宅建業者の数は123,307業者です。このうち、新規に免許を取得したのは5,250業者です。一方で廃業したのは4,569業者です。もしかしたら新規に取得した中にはこの4,569業者が何らかの理由で廃業しなくてはいけなくなって、新たに取り直したのでは?と思うかもしれませんが、そうとも言えません。
なぜなら4,569業者の廃業の内訳も公開されていますが、廃業が3,956業者、期限切れ475業者、免許取消138業者です。ちなみに「期限切れ」とはその名の通り更新手続きをしない場合です。免許は有効期間が満了する日の90日前から30日前までの間に更新手続きをすることが必要であると定められています。
自動車の運転免許の更新と同じ感じだと思っていいでしょう。これをしないと「期限切れ」となり、失効するわけですが、廃業手続きは取らないけれども高齢などの理由によって店を畳むというケースが多いと思われます。特に最近は個人業者の高齢化が著しく、景気の後退や体力の問題でやめる人は増えています。
この数字を見ると、免許取り消しは123,307業者のうち、たった138業者です。つまり、不動産業者で免許取り消しにはめったにならないということです。免許取り消しになるような業者は、相当悪辣なことを再三の注意にもかかわらず繰り返し、改善の見込みがないという業者だけでしょう。
実際に不動産契約に関するトラブルは多くありますが、業者が免許取り消しにまでなるのはほんの一握りのレアケースです。
なぜ更新回数はリセットされるのか
同じ統計資料を見てみると、更新回数は4回以下という比較的新しい業者が全体の6割近くを占めています。
では、免許取り消しになったわけでもないのに、長年営業していたような不動産業者の更新回数がリセットされてまた(1)からやり直しになってしまうのはどういったケースがあるのでしょうか?
更新回数がリセットされる理由
免許の更新回数がリセットされるのは、業務の形態が変わった場合です。たとえば、神奈川県だけで営業していた業者が業績が伸びたので東京都にも事務所を出して進出しようとした場合、それまでの都道府県知事の免許から国土交通大臣の免許に変わることになり、そのような場合も(1)からのスタートとなります。
また、その逆でやっぱり東京の事務所は儲からないから閉めて神奈川県だけでやっていこうと思ったら、再び(1)からということになります。個人事業を法人化しても同じです。つまり、やっている人や業務内容は何も変わっていなくても、会社の形態が変われば免許更新回数はリセットされるということです。
まとめ
不動産業者選びは気に入った物件選びの第一歩ですから、誰しも良い業者に巡り合いたいと思うものです。そんな思いが高じて免許の更新回数が少ない業者は「怪しい、やめよう」と短絡的に考えてしまう人もると思います。ですが、もしかしたらそれは単に手続き上の問題で更新がリセットされただけかもしれません。
最初から可能性を狭めてしまうのはもったいないことなので、更新回数はあくまでも参考程度に見ておきましょう。もちろん会社の雰囲気も良くて免許の更新回数も多い不動産屋だったら信頼できる業者の可能性は高くなりますが、「この業者はいい感じがしないな」と思ったら断って帰ってくる勇気も大切です。
いい家に巡り合うためには、業者の選定もある程度大事ですが、それよりもたくさんの物件を見て比較してみることが大事です。まずは自分の希望している物件探しから始めて、その後、管理している不動産業者の免許更新回数などの情報を調べてみる方がいいかもしれません。